最近ずっと恋愛に悩んでいた私は、心の奥深いところを痛めながら、武道館で行われたMary Jのライブに一人向かった。会場に入ると、単位が分からない程大勢の観客が、上の客席や、下の広い会場にびっしりと置かれたスティールチェアに座り開演を待ちわびていて静かな会場内に何故か活気さえ感じた。
会場が真っ暗になって、スクリーンに映画のワンシーンのようなスキットが流れた。その中でMaryは、音楽関係者と思われる利益重視のビジネスマンに「音楽業界が私を今の立場に持ってきてくれたわけじゃない!今の私があるのはファンのおかげよ!」とブチ切れ、そのスクリーンの中から飛び出してきたかのように、大勢の観客の歓声と共に四人のコーラス、大勢のダンサーの中へMaryが登場。"あぁ、あの時、あの場所で、私が涙しながら何度も繰り返し聞いた曲を、今ここにいるこの女性がこの歌声で歌っていたんだ。"Maryを目と耳で感じたら、心の奥深いところ、普通は誰も簡単にはそこまで入ってこれないところなのに、Maryの歌声はストレートに私のそこに広がって全身に鳥肌がたった。PVや雑誌で見たままのジーパン姿のMaryが"Real Love"を歌う。スティールチェアに張られた"立ち見厳禁"という張り紙も空しく、観客は皆立ち上がり会場は言葉では表せないような熱気に包まれた。真実の愛を求め、探し続けるという内容は、私を含め多くの人の主題歌的存在。Maryは常に、曲を通し強いメッセージを私達に伝えてくれる。
「本物の愛は一つだから!上を向いて生きていけばきっと見つかるから!」
とMaryは言った。会場の女の子が「Mary!I love you!」と叫んでいた。スクリーンに、Maryが小さい頃から今に至るまでの数々の写真が映し出され、最後は彼女の結婚式の写真、旦那様と誓いのキスを交わしているものだった。Maryが最後に見つけたReal Loveなんだと思った。
「私は、以前は自分を理解できなかった、苦しんだ、自分自身が嫌いだった、もう生きていたくなくて自殺しようとした事もある。だけど、それらを乗り越えて今日、私はMary J. Bligeを、自分の人生を愛している!」
人生の辛い時期を経験しそれを乗り越えた一人の女性として、彼女の曲を通して恋愛に苦しんでいる人や困難な日々を送っている人たちを励まし助けたいというMaryの気持ちが伝わってきた。
ライブ中会場内の照明は赤、黄色、緑、青、白、と何色もの光を放ち、その中でMaryはカジュアルなジーパン姿から、周りで一緒に踊るダンサー達とお揃いの緑・黄色・白のジャージ姿、水色のパンツドレス姿、と次々着替え、曲のメッセージに合わせて丁寧な演出が施されていた。そして一つ一つの演出に私達は歓声をあげたり、手を叩いたり、感動のあまり立ち尽くしたりした。
「これは女の子達に伝えたい!これは言うのは簡単でもとても難しいことなんだけど、(駄目な男のために)泣かない、ということ。あなたの涙がもったいないから。一滴だってそんな男のためになんか流してあげちゃだめ!」そして"not gon' cry"を歌うMary。ライブの所々で、食事中に喧嘩をするカップル、彼氏に暴力を振るわれる女の子、幼いわが子の前で旦那の浮気で喧嘩する夫婦という設定の短い劇が、彼女の歌う中に組み込まれた。"泣いて我慢するよりも、勇気を持って別れて、泣くのをやめるんだ"とMaryは歌う。
「ファンの方は私にとって何よりも大切です。この曲は会場にいる全ての方に捧げます。」そういうと"Everything"のイントロが聞こえてきて、胸が熱くなって私はアツイ涙をポロポロこぼした。思い出の沢山つまった、私にとってとても大切な曲、涙が止まらない。音楽を聴いてこんなに泣いたのは生まれて初めてだった。これが最後の曲かと思ったら、Maryは私を涙目のままで帰さない。アップテンポの"Family Affair"を熱唱し、会場は盛り上がり、私も気持ちよく音に身を任せた。そうして、「東京アリガトウ!」と何度も日本語で会場の私達に叫び続けたMaryのライブが終了した。
会場から出口へと向かう混雑した通路を歩いていて、ついさっきまで会場で一つになってライブを楽しんでいた私達は、実は様々な人間から成り立っていたことに気付いた。若い女の子の二人組み、カップル、男の子の集団、親子連れ、それに会社帰り風のサラリーマンの団体など。そして出口から外に出ると、私達はそれぞれの方向へ向かいそれぞれの人生へと帰っていった。それぞれMaryから元気を貰って。私自身それを実感した。ここに来た時はこころの奥深くが痛かったはずなのに、すごく元気になった自分に気付いたのだ。上を向いてこれからも人生を歩んでいけると思った。